投資家に伝わる「原体験」の書き方
説得ではなく共感へ。ピッチの物語部分で意識したい構成・文体・よくある失敗例を、具体例つきで解説します。

ともしびのピッチでは、事業計画の数字と並んで原体験を大切にしています。投資家が最初に読むのは、しばしば「あなたはなぜ、この事業をやるのか」という問いへの答えです。
うまく書くためのコツは、ピッチデックのスライド作りとは少し違います。本記事では、構成・文体・よくある失敗例の三つに分けて整理します。
1. いつ・どこで・誰が——場面から入る
「社会課題を感じた」「市場機会を発見した」だけでは、読み手の脳内に映像が浮かびません。
弱い例: 高齢化が進み、介護現場の課題が深刻化している。そこで私は解決策を考えた。
強い例: 2022年の冬、私が勤めていた特養で、夜勤のベテラン職員が新人に同じ説明を三度繰り返しているのを見た。マニュアルはある。でも、現場に合うかどうかは、その場でしかわからない。
後者は、読み手が「自分も現場を見たことがある」と感じやすく、共感の入口ができます。年号・場所・具体的な一場面——この三つを意識するだけで、文体が大きく変わります。
2. 感情は一行でよい。ただし「動機」は省略しない
長い告白や自伝調の文章は、ピッチでは逆効果になりがちです。一方で、なぜ自分が動かざるを得なかったかは、一行に圧縮して残してください。
「だから私は、現場の職員が10分で済む研修をつくることにした。」
この一行があるかないかで、事業の人格が伝わります。投資家は、事業そのものと同じくらい、創業者のコミットメントを見ています。
3. ビジョンで締め、ロジックは別章に任せる
原体験の直後に、いきなり市場規模の数字を並べないでください。ともしびのピッチ構成では、物語のあとに「ビジョン」、その後に「マネタイズ」「競合優位」という順番を推奨しています。
読み手の感情が動いた直後に、「だから私たちは〇〇を実現する」と書く。論理の補強は、別セクションで丁寧に行えば十分です。
よくある失敗例
- 一般論の羅列 — 「DXが進む中で…」は誰の物語でもない
- 他者の不幸の消費 — 当事者の尊厳を損なう描写は避ける
- 原体験と事業の断絶 — 体験が今の事業とどうつながるか、一行で明示する
実践の目安
- 原体験は 600〜1,000字 程度を目安に(短すぎず、長すぎず)
- 専門用語より、現場の言葉を優先する
- 書き終えたら、知人に読んでもらい「どんな場面が浮かんだか」だけ聞く
- 完成度チェックとAIロジック診断を、投稿前のセルフレビューに組み込む
物語は、投資家を説得するための道具ではありません。対話を始めるための手紙だと考えてみてください。
